田中将大投手2016シーズン分析

いよいよNPB、MLBが開幕し、野球シーズンの到来となりました。そこで、2017年シーズン3度目の開幕投手を務めた田中将大投手(以下田中投手)を特集します。

まず、2016年シーズンの活躍の秘密に迫っていきたいと思います。そして次回(本記事の最後にリンク)は2017年初登板の分析結果について報告します。ぜひ併せてご覧ください。

田中投手のプロフィール

兵庫県伊丹市出身のメジャーリーガー。駒大苫小牧高校を卒業後、東北楽天ゴールデンイーグルスに入団。球団史上初優勝に大きく貢献した後にメジャーリーグに挑戦。現在はニューヨーク・ヤンキースに所属しています。アマチュア時代から常に世代トップを走り続ける日本を代表する右腕です。

 昨シーズンは、メジャー移籍後初めてフルシーズンを投げぬきました。イニングはわずかに200回に届かなかったものの、14勝4敗防御率3.07の好成績を残し、防御率はリーグ3位の成績でした。

与四球率(四死球/9)1.62は特筆すべき数字で、名門球団ヤンキースのエースを任せられる投手へと進化を遂げました。その安定感はメジャーでも高く評価されており、日本人で未だ成し遂げたことのないサイヤング賞受賞へ期待も高まる一方です。

各球種の球速と投球割合

メジャー3年間で屈指のハイブリッドな投手へと進化

【表1、2】をみると4シームの球速はMLB平均値とほぼ同様または下回っています。メジャーリーグでは田中投手は決して速球派とはいえないことがわかります。

持ち球は6球種と非常に多彩であり、様々な球種を組み合わせて打者を打ち取っています。また、平均球速(%)をみるとスプリットは95%と非常に高速なボールであることがわかります。

田中投手の代名詞ともいえるスプリットですが、非常に高速な球種であることが特徴といえます。

投球割合をみると、対右打者、対左打者ともにスプリット、スライダー、カーブの割合が合わせて約6割を占めており、4シームはほとんど投球していません。

日本時代は、4シームとスプリットを武器に次々と三振を奪うイメージの強い田中投手でしたが、メジャーリーグ挑戦後は2シームの投球割合が増加しました。

一般的に、空振りを奪いやすいとされるスプリットと、ゴロで打ち取りやすいとされる2シームの両方のボールを投げ分ける田中投手は、「ハイブリッドな投手」と高い評価を受けています。

表1 対右打者における各球種の球速
球種平均球速(km/h)平均球速(%)最高球速(km/h)投球割合(%)
4シーム148
(149)
100
(100)
153
(154)
5
2シーム146
(149)
99
(100)
152
(153)
23
カットボール144
(143)
97
(96)
150
(149)
11
スプリット140
(138)
95
(92)
145
(144)
26
スライダー136
(136)
92
(91)
145
(144)
32
カーブ122
(125)
83
(84)
131
(135)
3

カッコ内はMLB平均

表2 対左打者における各球種の球速
球種平均球速(km/h)平均球速(%)最高球速(km/h)投球割合(%)
4シーム149
(149)
100
(100)
155
(154)
8
2シーム146
(149)
99
(100)
152
(153)
19
カットボール144
(143)
97
(96)
148
(149)
8
スプリット140
(138)
95
(92)
145
(144)
34
スライダー136
(136)
92
(91)
144
(144)
23
カーブ122
(125)
83
(84)
133
(135)
8

カッコ内はMLB平均

各球種の変化量

メジャー平均に近い「平均型」

【図1、2】をみると、田中投手はMLB平均に近い変化量のボールが多く、いわゆる「平均型」の投手であることがわかります。

そのため一つの球種ではなく、様々な球種を組み合わせて打者を打ち取っています。【表3、4】

図1 対右打者へのボールの変化量
図2 対左打者へのボールの変化量

※薄色は各球種のMLB平均

4シーム

ホップ成分、スライド成分共にMLB平均をやや上回るボールとなっています。シュートしながら伸びるボールであるといえます。

2シーム

ほぼMLB平均と同じ変化量ですが4シームとの差で相対的に落差を感じる可能性があります。

カットボール

シュート成分が大きく、一般的なカットボールよりも4シームに近くなっています。打者は判別が難しいかもしれません。

スプリット

意外にもボールの変化量は平均的です。しかし4シームのホップがやや強いため、落差を感じる可能性があります。変化量よりも高速であることが他の投手との違いになっています。

スライダー

変化の小さなボールです。ホップ成分がMLB平均を大きく上回っており、相対的に2シームやスプリットの変化をより感じさせているボールかもしれません。

カーブ

ほぼMLB平均と同じ変化量です。

表3 対右打者における各球種のスピンレートとボールの変化量
球種スピンレート(rpm)縦の変化量(cm)横の変化量(cm)
4シーム2234
(2253)
51
(45)
29
(23)
2シーム2022
(2159)
33
(34)
39
(38)
カットボール2152
(2275)
38
(32)
19
(2)
スプリット1629
(1613)
22
(20)
33
(29)
スライダー2230
(2264)
22
(13)
-2
(-5)
カーブ2315
(2413)
-12
(-15)
-15
(-17)

カッコ内はMLB平均

表4 対左打者における各球種のスピンレートとボール変化量
球種スピンレート(rpm)縦の変化量(cm)横の変化量(cm)
4シーム2249
(2253)
50
(45)
30
(23)
2シーム2024
(2159)
32
(34)
38
(38)
カットボール2129
(2275)
36
(32)
20
(2)
スプリット1572
(1613)
19
(20)
32
(29)
スライダー2212
(2264)
21
(13)
-2
(-5)
カーブ2288
(2413)
-14
(-15)
-16
(-17)

カッコ内はMLB平均

各球種ごとの投球フォームの特徴

リリースの低さを生む沈み込むフォーム

【表5、6】をみると、リリース高がメジャー平均よりも大きく下回っていることがわかります。

エクステンションが短いことからも、田中投手はややスリークォーター気味に沈み込んだフォームから投球する特徴を読み取ることが出来ます。メジャーリーガーにあまり多くないタイプのフォームで、打者にとってはボールの来る角度が見慣れないかもしれません。

このようにボールの変化量が平均的であっても、フォームやリリース位置の違いで打者の感じ方は大きく変化します。このフォームも田中投手の武器のひとつでしょう。

また、リリース横が対右打者と対左打者で変化しています。プレート位置を変化させて、ボールの変化をより感じさせるクレバーさを持ち合わせています。

表5 対右打者における各球種のリリース位置
球種リリース高(cm)リリース横(cm)エクステンション(cm)
4シーム163
(180)
37
(50)
178
(188)
2シーム162
(178)
40
(54)
178
(187)
カットボール162
(181)
39
(51)
179
(184)
スプリット165
(183)
39
(50)
174
(182)
スライダー164
(181)
45
(56)
171
(178)
カーブ173
(187)
43
(53)
164
(173)

カッコ内はMLB平均

表6 対左打者における各球種のリリース位置
球種リリース高(cm)リリース横(cm)エクステンション(cm)
4シーム162
(180)
46
(50)
180
(188)
2シーム161
(178)
45
(54)
180
(187)
カットボール162
(181)
42
(51)
178
(184)
スプリット165
(183)
45
(50)
174
(182)
スライダー163
(181)
51
(54)
171
(178)
カーブ173
(187)
49
(53)
163
(173)

カッコ内はMLB平均

各球種のカウントとゾーンの特徴

最大の持ち味は圧倒的なコマンド力!

ここまで、田中投手の球速や変化量はメジャーリーグ平均に近いことを述べてきました。

しかしカウントとゾーンからみる特徴に田中投手の凄みを随所に感じることが出来ます。球種ごとに特徴をみていきます。

4シーム

右打者に対しては3-0、3-1のカウントに多く投げられていますが、決して多くはありません。左打者に対してはやや割合が増加するものの、あまり多いとは言えません。【表7、8】

表7 対右打者へのカウント別投球割合
表8 対左打者へのカウント別投球割合

またカウント別球速をみると、追い込んだ後に明らかに球速を高めている意図を感じます。同一球種内でも緩急をつけ、狙って三振を奪えることは大きな武器の一つです。【表9、10】

表9 対右打者へのカウント別球速
表10 対左打者へのカウント別球速

【図3、4】をみると、対右打者対左打者ともに外角に制球されていることがわかります。ボール先行カウントにおいても狙ったコースに投球できる高い精度を感じます。

図3 対左打者へのボールの投球割合
図4 対右打者へのボールの投球割合
2シーム

2シームは田中投手の軸となるボールのひとつです。特に2-0、3-0といった打者有利なカウントではかなり高い確率で投球しています。左打者に対しては3-0のカウントで100%投球しています。【表11、12】

表11 対右打者へのカウント別投球割合
表12 対左打者へのカウント別投球割合

2シームもカウント別で球速に変化があり、同一球種間での緩急を使っています。左打者に対しては追い込んだ後に球速を高めている一方で、右打者に対してはカウントが深くなっていくにつれて球速を高めています。

左打者に対しては2シームの一般的な使い方であるゴロを打たせる目的以外に、積極的に空振りを奪う目的でも投球しているようです。【表13、14】

表13 対右打者へのカウント別球速
表14 対左打者へのカウント別球速

投球されるゾーンは低めに徹底されています。左打者に対しては内角のストライクにはほとんど投球していません。【図5、6】

図5 対左打者へのボールの投球割合
図6 対右打者へのボールの投球割合
カットボール

カットボールは早いカウントでの投球がほとんどです。変化量が小さく、カウントを整える目的で使用しています。【表15、16】

表15 対右打者へのカウント別投球割合
表16 対左打者へのカウント別投球割合

投球されるゾーンは右打者に対しては外角のストライクゾーンに多く投球している一方で、左打者に対してはボールゾーンにも多く投球されていることも注目です。【図7、8】

図7 対左打者へのボールの投球割合
図8 対右打者へのボールの投球割合
スプリット

田中投手の代名詞ともいえるスプリットですが、精度の高さが伺えます。まず投球割合はやはり追い込んだ後に多く投球されており、決め球のひとつとなっています。特に左打者に対しては追い込んだ後に多投しています。

また早いカウントで投球する場面も少なくなく、ゴロを打たせる目的でも投球されているようです。【表17、18】

表17 対右打者へのカウント別投球割合
表18 対左打者へのカウント別投球割合

【図9、10】をみるとかなり高い精度で低めに制球されていることが伺えます。これが田中投手のスプリットが打たれない最大の要因でしょう。

右打者に対してはストライクゾーンにも多く投球していますが、ゴロを打たせる目的の場面と空振りを奪う目的の場面で投げ分けているかもしれません。

図9 対左打者へのボールの投球割合
図10 対右打者へのボールの投球割合
スライダー

スライダーは3-0をのぞくすべてのカウントで投球されています。特に右打者の追い込んだ後に最も投球されています。【表19、20】

表19 対右打者へのカウント別投球割合
表20 対左打者へのカウント別投球割合

また、スライダーも追い込んだ後に球速が高まっており、決め球として使用する場面では意図して空振りを狙っていると推察されます。【表21、22】

表21 対右打者へのカウント別球速
表22 対左打者へのカウント別球速

投球されるゾーンは、右打者に対しては外角低めに徹底されており、左打者には内外角の低めのボールゾーンに投球されています。【図11、12】

図11 対左打者へのボールの投球割合
図12 対右打者へのボールの投球割合
カーブ

ほとんど初球にのみ投球されています。【表23、24】

表23 対右打者へのカウント別投球割合
表24 対左打者へのカウント別投球割合

ストライクを取るボールとしてストライクゾーンに多く投球されています。【図13、14】

図13 対左打者へのボールの投球割合
図14 対左打者へのボールの投球割合

【表25】をみると、空振り割合はすべての球種でメジャーリーグ平均を下回っています。また、ゴロ割合はスプリットのみ高い成績を残していますが、他の球種はメジャーリーグ平均を下回っています。

しかしながら、田中投手は2016年シーズンに奪三振165、K/BB(奪三振/四球)4.58と高い成績を残しています。つまり、勝負所で狙ってゴロを打たせたり、空振りを奪ったり出来ているといえます。

ゴロを打たせる目的の球種と、空振りを奪う目的の球種を持つ田中投手は「ハイブリッド」との評価を受けていますが、多くの球種においてそれぞれゴロを打たせる場面と、空振りを奪う場面を使い分けることの出来る田中投手は、更に上級な「スーパーハイブリッドな投手」といえるかもしれません。

表25 各球種のスイング割合、空振り割合と打球の種類
球種スイング割合 (Sw Rate)空振り割合 (Whf/Sw)ゴロ割合(GB/BIP)ライナー割合(LD/BIP)フライ割合 (FB/BIP)
4シーム41%
(46%)
13%
(19%)
24%
(36%)
26%
(28%)
39%
(27%)
2シーム44%
(44%)
10%
(13%)
49%
(56%)
28%
(24%)
16%
(16%)
カットボール56%
(50%)
20%
(23%)
37%
(46%)
35%
(25%)
19%
(22%)
スプリット59%
(53%)
30%
(34%)
65%
(52%)
20%
(24%)
13%
(19%)
スライダー52%
(49%)
33%
(36%)
41%
(46%)
24%
(25%)
24%
(21%)
カーブ26%
(40%)
23%
(32%)
30%
(51%)
35%
(24%)
30%
(20%)

カッコ内はMLB平均

2016年活躍の秘密

名門球団のエースはメジャー屈指の「勝てる投手」

ここまで行ってきた田中投手の分析結果を、昨シーズンの活躍の秘密と照らし合わせながら整理していきましょう。

まず田中投手はメジャーリーグでは決して速球投手ではありません。しかし他の様々な武器で打者を打ち取っています。

大きな特徴のひとつが投球フォームです。ボール変化量も平均的である田中投手ですが、リリース位置が低く、打者の感じ方は大きく異なると予想されます。

また、コマンド力は圧倒的です。ストライクを取る能力だけでなく、狙ったスポットへ投球する能力が非常に高く、多くの球種でゴロを狙う場面と空振りを狙う場面を使い分けることが出来ます。

加えて球速を変化させることで同一球種内での緩急も実現しています。投球する一球一球に意図を感じる非常にクレバーな投手であるといえます。

メジャーリーグでの3年間でも進化を続け、名門球団のエースへと上り詰めた田中投手は世界有数の「勝てる投手」であると断言できるでしょう。

あとがき

次回は、田中投手の2017年の投球について様々な角度から分析していきます。本記事の内容などを踏まえて、田中投手の更なる飛躍、そして「日本人初のサイヤング賞受賞」へのキーとなるポイントを、読者の皆様も想像しながら読み進めて頂くと、より楽しんでいただけるかもしれません。

では次回の田中将大投手「サイヤング賞への道」でお会いしましょう。

田中将大「"サイヤング賞"への道」

Baseball Geeks編集部

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