ダルビッシュ投手の分析 その3

ダルビッシュ投手のカウントによる攻め方の違い

ダルビッシュ投手の4シームは、高い空振り割合を誇り、その理由はホップ成分の大きい変化量と、低いリリースによって説明できることを前回述べました。

また、スライダーについては、スイング割合が高く、「振りに行かせるボール」であり、さらに当たらないボールであることも分かっています。

打者からしてみれば、スライダーは低速であるために、手を出しやすいボールなのかも知れません。しかしながら、スライド成分が大きいボールであるために空振りが多くなっているのではないかと説明できます。
 

このように,成績と球質を結びつけてきましたが、カウントという切り口よってさらに深くダルビッシュ投手の特徴をあぶり出すことができます。

対右打者への投球

まず、右打者へ対戦する場合を考えていくことにします。

■4シーム
ダルビッシュ投手の右打者への4シームはストライクを取る球種です。ダルビッシュ投手の右打者への全投球のうち40%と最も多く投げる球種が4シームです。4シームを投げる特徴的なカウントは以下の通りです。【表1、2、図1】

<カウント0-0(初球)>
投球割合は32%と、平均よりも若干割合は低くなっていますが、初球では最も多く投げる球種となっています。

<カウント0-2>
4シームの割合がグッと上がります。さらに、球速も、初球に比べて3km/hも上昇します。ホップ成分の大きいボールで空振りを奪いたい意図が見えてきます。
追い込んでからの球速が大幅に上昇するというのがダルビッシュ投手の特徴で、球速に強弱をつけて打者と対戦している様子がうかがえます。

<カウント2-0、3-0>
ボールカウントが増えてきても、4シームを多く投げていることがわかります。このときの球速は150km/hを下回る場合もあり、いわゆる「置きに行く」ことで、制球をしているものと予想されます。

表1 対右打者へのカウント別投球割合
表2 対右打者へのカウント別球速
図1 対右打者へのボールの投球割合

■2シーム
ダルビッシュ投手の右打者の2シームは追い込むための球種です。ダルビッシュ投手の右打者への全投球のうち23%と2番目に多く投げる球種が2シームです。2シームを投げる特徴的なカウントは以下の通りです。【表3、4、図2】

<カウント0-1>
4シームの割合が低くなっています。このカウントは、4シームを投げずに、別の球種を選択しているということです。0-1で急激に投球割合が上昇しているのが、2シームです。対右打者には全体で23%は2シームを投球しています。0-1では、30%投球しており、どのカウントよりも2シームを多く投球しています。
 

追い込んでからの2シームを投球する確率は非常に低くなっています。2ストライク後は、9~14%しか投球していませんので、だいたい半分くらいの投球割合になります。ゴロ割合の高い2シームですから、早いカウントでゴロを打たせたいという意図が見えます。

しかも投球されるのは、インコース低めに集中しています。アウトコース高めにはほとんど投球されていません。インコースの2シームで詰まらせることでゴロを打たせ、球数を減らすというのがこのボールの意味なのでしょう。

表3 対右打者へのカウント別投球割合
表4 対左打者へのカウント別投球割合
図2 対右打者へのボールの投球割合

■スライダー
ダルビッシュ投手の右打者へのスライダーは追い込んでから投げる球種です。スライダーを投げる特徴的なカウントは以下の通りです。【表5、6、図3】

<カウント2-2>
スライダーの全体の球種割合は22%です。極端にスライダーを選択しているのが、2-2のときで、球種割合は37%にまで上昇します。2-0や3ボールになってからは、スライダーはほとんど投球していません。他のカウントでは、比較的満遍なく投球しています。

表5 対右打者へのカウント別投球割合
表6 対右打者へのカウント別球速
図3 対右打者へのボールの投球割合

対左打者への投球

次に、左打者へ対戦する場合を考えていくことにします

■4シーム
ダルビッシュ投手の左打者へ投げる4シームの特徴は追い込んだ場面で選択されないことです。4シームを投げる特徴的なカウントは以下の通りです。【表7、8、図4】

<カウント2-0、3-1、3-0>
4シームは左打者に関しても、カウントが悪くなったときに多投している球種になります。2ボール後、3ボール後は割合が非常に高くなっています。

一方で、追い込んでからは、その割合が減っており、この傾向は対右打者とは異なっています。特に2-2では、4シームの投球割合が27%と極端に減っており、別の球種を選択していることが見て取れます。

表7 対左打者へのカウント別投球割合
表8 対左打者へのカウント別球速
図4 対左打者へのボールの投球割合

■スライダー
ダルビッシュ投手の左打者へ投げるスライダーは右打者同様に追い込んだ場面で選択されます。4シームを投げる特徴的なカウントは以下の通りです。【表9、10、図5】

 

<カウント0-2、1-2、2-2、3-2>
対左打者になると、スライダーの使い方が変わります。全体としては19%のスライダーの投球割合ですが、2ストライク後に、急激に割合が上昇します。0-2で46%、1-2で30%、2-2で51%、3-2で50%と、半分以上がこの球種のカウントもあります。

対右打者と異なる点は、これだけではありません。投球される場所が異なっています。対右打者へはアウトコース低めに投球していましたが、左打者へは、アウトコースへ投球しており、いわゆるバックドアのスライダーを投球しています。

表9 対左打者へのカウント別投球割合
表10 対左打者へのカウント別球速
図5 対左打者へのボールの投球割合

誰のためのデータ?

合計4回にわたって、baseballsavantとBaseball Prospectusで入手できるデータをもとに投手の分析をしてきました。では、これはいったい誰のためのデータなのでしょうか。まずは、このデータの本人であるダルビッシュ投手のためのデータであると言えます。
 

2017年シーズンは「スプリット解禁」と報道されています。2016年でも、スプリットを右打者へ15球、左打者へ25球投げています(投げたことになっています)。【表11】と【表12】を見比べてみると分かるのですが、対左打者のほうがスピンレートは200rpmも低く、8cm大きく落ちています。

逆に言うと、右打者へは落ちが悪い。スプリットはボールを中指と人差し指で挟んで投球するため、他の球種よりも抜ける可能性が高い球種です。右投手のダルビッシュ投手は、抜けることによる死球を恐れて、右打者に投球するスプリットは抜けが悪くなっている可能性があります。

このような分析は、投球の振り返りとなり、パフォーマンスの向上の一助となる可能性を秘めています。

表11 対右打者における各球種のスピンレートとボールの変化量
球種スピンレート(rpm)縦の変化量(cm)横の変化量(cm)
4シーム2533
(2253)
53
(45)
11
(23)
2シーム2262
(2159)
38
(34)
31
(38)
カットボール2575
(2275)
21
(32)
-16
(2)
スプリット1847
(1613)
36
(20)
25
(29)
スライダー2589
(2264)
-7
(13)
-33
(-5)
カーブ2470
(2413)
-35
(-15)
-30
(-17)

カッコ内はMLB平均

表12 対左打者における各球種のスピンレートとボールの変化量
球種スピンレート(rpm)縦の変化量(cm)横の変化量(cm)
4シーム2506
(2253)
53
(45)
11
(23)
2シーム2222
(2159)
36
(34)
29
(38)
カットボール2538
(2275)
23
(32)
-12
(2)
スプリット1622
(1613)
28
(20)
25
(29)
スライダー2584
(2264)
-12
(13)
-33
(-5)
カーブ2442
(2413)
-33
(-15)
-29
(-17)

カッコ内はMLB平均

「ダルビッシュ投手みたいになりたい!」という人のためのデータ

トラッキングデータが手軽に計測できる時代はすぐそこまで来ています。となると、「ダルビッシュ投手のようになりたい」と夢見るアマチュア野球少年にとっては具体的な目標を設定することができるでしょう。アマチュア野球でもこれら分析データのニーズが高まることが期待されます。

「ダルビッシュ投手を打ち崩したい!」という人のためのデータ

そして、投手のデータを分析することで恩恵を得られる人達がいます。それは打者です。私も野球をやっていました。右打者である私がダルビッシュ投手と対戦する場合、何を考えるでしょうか。

ダルビッシュ投手の中で、もっとも特徴がないのが2シームです。2シームにしてはホップ成分が大きめ、シュート成分が小さめですので、MLB平均の4シームに近い球質です。これを投球するコースもインコース低めで、コースを絞りやすい。

そして、早いカウントで投げてきますから、追い込まれるまでは2シームを狙います。アッパースイングでフルスイング。レフトスタンドへホームラン。もうイメージはできています。
 

左打者のほうがカウントやコースの特徴が大きく出ていますので対策は立てやすいのかも知れません。このこのように、打者にとっても予測に役立つ情報が満載であると言えます。

ワールドベースボールクラシック(WBC)で鍵を握る情報戦

2008年に北京オリンピックでソフトボール女子日本代表が金メダルを獲得しましたが、相手国の膨大な量の情報を収集し、監督やコーチ、選手に手渡しました。国際大会は、ほんの少しの差が、勝敗を決めます。ちっぽけな情報が勝敗でも後々役に立つということがあります。
 

3月7日からWBCが始まります。公開されているデータには、WBCで日本と対戦するであろう投手のデータも含まれています。WBCは短期決戦で、相手国の情報は多いとは言えません。オリンピックと同様で、相手国の情報をどれだけ事前に入手できるかが勝利の鍵を握るのではないでしょうか。

「打者が一巡するまで様子を見る」ことで、1打席分捨ててしまうのは非常に勿体ない。たとえば、変化量のデータによって、事前にボールのイメージする手がかりとなりますから、選手は一球目からアジャストできる可能性もあります。
 

今後はWBCの出場選手の分析を紹介していきます。Baseball Geeksを読めば、対戦国の対策を立てることができます。あとは侍JAPANに招集されるだけです。次回から、1次ラウンドで対戦するオーストラリア代表の投手3名を分析していきます。

※Baseballsavantリニューアルに伴い、一部データを更新しました(2017/6/22)

Tsutomu Jinji

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