【打撃特集2】打球速度の重要性!打撃の新指標バレル

前回に引き続き打撃について特集します。

Statcastで取得できるデータに打球速度があります。打球速度は、打者が打球を放った際の初速度であり、打球角度と並んで注目されている数値のひとつです。

打球速度が速いことは正義だとはなんとなく感じていますが、速い打球は具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。今回はこの打球速度の奥深さに注目したいと思います。

セイバーメトリクスからみる打球速度

【表1】をみると、打球速度が高くなると長打率が上がっていることがわかります。

また打球速度が153km/h(95マイル)を超えると急激に本塁打が増加しています。2塁打、3塁打をみても、この地点を境に発生割合が急増しており、打球速度153km/h(95マイル)は、長打を放つひとつの目安となるかもしれません。

表1 打球速度と結果割合の関係(2015年MLBデータ)
打球速度(km/h)打数単打(%)2塁打(%)3塁打(%)HR(%)長打率
177123136.118.00.618.11.464
169656932.215.81.519.61.469
1611320428.313.71.912.01.096
1531531524.49.71.64.3.656
1451353020.35.90.70.7.372
1371123018.44.10.20.1.277
129902819.02.70.20.0.251
121707520.92.40.10.0.261
113534024.02.00.10.0.283
105354924.12.20.10.0.288
97213117.51.30.00.0.203
8011869.91.50.00.0.129

そしてなんと、単打の割合が急上昇する地点も153km/h(95マイル)付近なのです。その地点とは奇しくも長打の割合が大きく上昇する地点と一致しており、打球速度が速くなると単打も長打も増えていることがわかります。

(単打の割合が110km/h付近で一度上昇する理由は、今後のコラムにおいて考察します。)

つまり、速い打球は、ゴロやライナーで内野の間を抜けていくことが頻発し、結果的に単打を誘発するということになります。

一方で、一度目の上昇地点(打球速度110km/h付近)の長打の確率は、合計しても2%程度と限りなく0に近いため、単打を稼ぐという方策は、得点に貢献する長打を生み出しません。打球速度を高めることこそが打撃で重要視する指標といえるでしょう。

次に打球速度と飛距離の関係をみてみます。打球速度95マイル(152km/h)付近は、飛距離360~370ft(109m~112m)と、外野フェンスを超える地点と一致していることがわかります。
表1で示された高い長打率や、単打割合や長打割合が急上昇することを助長するデータといえるでしょう。【図1】

 

図1 打球速度と飛距離の関係

(参考:http://baseball.physics.illinois.edu/statcast.html)

長打率が上がると、OPSも高まり、得点の可能性が高まることは、前回の(打撃特集1)で紹介しました。このことからも、得点を重ねるために打球速度は重要な指標であるといえるのではないでしょうか。

打球速度での選手評価

打球速度は選手を評価するうえでの指標としても大きな注目を集めています。
【表2、3】は、2015年から2016年にかけてライナーとフライの打球速度が変化した打者です。

打球速度が上がった打者はHR/FB(全フライのうちHRになった割合)が上昇し、打球速度が下がった打者はHR/FBが低下しています。

表2 打球速度が上昇した選手の打球速度(EV)とHR/FB
Name2015年打球速度
(フライ・ライナー)
2016年打球速度
(フライ・ライナー)
前年比2015年
HR/FB
2016年
HR/FB
前年比
M.Joyce142㎞152㎞10.3㎞6.6%22.7%15.8%
M.Holiday146㎞156㎞9.7㎞7.5%17.9%10.4%
S.Rodriguez148㎞156㎞7.6㎞7.6%25.0%17.0%
D.Espinosa146㎞153㎞7.2㎞7.2%17.2%3.0%
J.Lamb148㎞155㎞6.9㎞6.9%21.2%14.0%

表3 打球速度が下降した選手の打球速度(EV)とHR/FB
Name2015年打球速度
(フライ・ライナー)
2016年打球速度
(フライ・ライナー)
前年比2015年
HR/FB
2016年
HR/FB
前年比
G.Stanton165㎞157㎞-8.2㎞32.1%22.7%-9.4%
L.Cain149㎞143㎞-6㎞11.2%9.5%-1.7%
D.Travis152㎞146㎞-5.6㎞16.0%9.9%-6.1%
M.Conforto155㎞150㎞-52㎞17.0%12.2%-4.8%
R.Grichuk158㎞153㎞-4.5㎞19.1%17.9%-1.2%

打球速度と長打率の関係や、飛距離との関係は先述しましたが、このように打球速度を横断的にみていくと、選手の能力や好不調を評価することができ、ついては成績予見にもつながるかもしれません。

昨シーズンは出場機会の少なかったものの、平均打球速度が最も速かったジャッジ・アーロンは、今シーズン本格的にレギュラーに定着し、5/18現在アメリカンリーグの本塁打王を争っています。このように、打球速度は「真の強打者」を見つけ出す指標のひとつとなりうるかもしれません。

新指標バレルの存在

打球速度と打球角度のデータが積み重なることにより、MLBでは「バレル」という新指標も登場しました。2015年のMLBのデータから、打率.500、長打率1.500を超える打球速度と打球角度の組み合わせを明らかにし、そのゾーンをバレルと名付けました。MLB2016年シーズンのデータでは、バレルのゾーンに入った打球の成績は、打率.822、長打率2.386を超えていました。

 

打球をバレルのゾーンに入れるには、少なくとも打球速度が158km/h(98マイル)以上必要です。そして打球速度が上がる毎に角度の範囲は広がっていきます。打球速度が161km/h(100マイル)を超えると、1.6km/h(1マイル)あたり2~3度ずつバレルの範囲が広がります。

そして閾値である187km/h(116マイル)に到達すると、8°~50°の範囲でバレルとなります。【表4、図2】

表4 打球速度に対するバレルゾーン
打球速度(km)打球角度(°)
1878~50
16124~33
15826~30

図2 新指標バレルゾーン

バレルのゾーンの打球は大半が長打になるため、打者はバレルの打球を増やす努力をするべきでしょう。実際に、2016年のバレル数上位者は高い長打率を記録しており、チームに大きく貢献しています。

打球速度が速いと長打率が高くなっていた理由も、打球速度が速いと、バレルゾーンに入る範囲が広がることが大きくかかわっていることでしょう。【表5】

表5 2016年シーズンバレル数上位者の個人成績
Nameバレル数HR長打率OPS
M.Cabrera7738.563.956
D.Ortiz7238.6201.021
N.Cruz7243.555.915
M.Trumbo7047.533.850
K.Davis6742.524.792

「見える」データをプレーに活かす

ここまで打球速度が得点を生み出す上で非常に重要であることを紹介してきました。Statcastの発展により、打球を数値化することが可能になりました。今まで印象で語られがちであったバッティングですが、「見える」ようになったデータを活用することでより適切な評価や指導が出来るようになりつつあります。

 

Baseball Geeksでは今後もデータを活用する選手や指導者のヒントとなるような情報を発信していきます。次回はバイオメカニクスの知見も併せて、打球速度の速い打球を放つためのメカニズムを紹介します。ぜひご覧ください。

BASEBALL GEEKS編集部

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