田中将大「”サイヤング賞”への道」

前回は2016年の田中投手について分析してきました。(田中将大投手2016シーズン分析

今回は2017年初登板となった開幕戦の投球を、昨シーズンのデータと比較しながら分析していきたいと思います。

田中将大投手「サイヤング賞への道」と題して、今シーズンの飛躍へのキーポイントはいったい何なのか探っていきたいと思います。

2017年開幕戦VSタンパベイレイズ

3回途中7失点。2017年シーズンは、自己最多失点と最悪のスタートとなりました。メジャー3年目であった昨シーズンは、アメリカンリーグ3位の防御率を記録し、自他ともに認めるヤンキースのエースへと上り詰めました。

名門再建へ。4年目となる田中投手へかかる期待は大きく、その声は同時に大きな重圧となっていたかもしれません。

しかし、名誉のオープニングゲームも、過ぎてしまえば長いシーズンの1試合に過ぎません。田中投手本人も「修正して次の登板に臨みたい」と試合後のコメントを残したように、もう次への戦いははじまっています。

日本人初のサイヤング賞獲得へ。田中投手飛躍のキーポイントを探るべく昨シーズンデータと比べてみたいと思います。

各球種の球速と投球割合(昨シーズンとの比較より)

球速は変わらずも、投球割合に大きな変化

各球種の球速は、昨シーズンデータの平均球速とほとんど差がありませんでした。カーブがやや昨年より速くなったものの、もともと低速であったボールがほぼMLB平均になった程度の差に過ぎません。【表1、2】

表1 対右打者における各球種の球速
球種平均球速(km/h)平均球速(%)最高球速(km/h)投球割合(%)
4シーム147
(148)
100
(100)
150
(153)
16
2シーム147
(146)
100
(99)
148
(152)
42
スプリット140
(140)
95
(95)
142
(145)
13
スライダー136
(136)
92
(92)
139
(145)
29

カッコ内は昨シーズンデータ

表2 対左打者における各球種の球速
球種平均球速(km/h)平均球速(%)最高球速(km/h)投球割合(%)
4シーム149
(149)
100
(100)
151
(155)
25
2シーム146
(146)
99
(99)
148
(152)
28
スプリット141
(140)
96
(95)
143
(145)
31
スライダー135
(136)
92
(92)
137
(144)
8
カーブ127
(123)
86
(83)
130
(133)
8

カッコ内は昨シーズンデータ

一方で投球割合は大きく変化しています。

昨シーズンは、対右打者、対左打者ともにスプリット、スライダー、カーブの割合が合わせて約6割を占めており、4シームはほとんど投球していませんでした。

一方で開幕戦データをみると4シームを多く投球しています。また、カットボールは投球せず、カーブも左打者にのみ投球しています。

前回に田中投手の武器として圧倒的なコマンド力について紹介しました。しかし開幕戦では田中投手には珍しく、制球に苦しんだ印象です。ボール先行カウントが増えたことも投球割合に影響を与えたかもしれません。

各球種の変化量(昨シーズンとの比較より)

要注意!ホップ成分が減り予期せぬシュート成分が増加!?

昨シーズンの平均と開幕戦の変化量を比べると、大きな違いが表れています。細かく球種ごとにみていきます。【図1、2、3、4】【表3、4】

図1 昨シーズンの右打者へのボールの変化量
図2 今シーズンの右打者へのボールの変化量

※薄色はMLB平均

図3 昨シーズンの左打者へのボールの変化量
図4 今シーズンの左打者へのボールの変化量

※薄色はMLB平均

4シーム

4シームのホップ成分はほぼメジャーリーグ平均の値となっており、昨シーズンと比べて大きく下がっています。シュート成分も大きく、いわゆるシュートしている4シームとなっています。

2シーム

昨シーズンと比べて大きく沈んでシュートしています。しかしながら、4シームのホップ成分が大きく下がったため、昨シーズンよりも打者に落差を感じさせられなかったのかもしれません。

カットボール

開幕戦では投球しませんでした。ボールが軒並みシュートしてしまっていたのにも関係があるかもしれません。

スプリット

昨シーズンより大きく沈んでいます。特に左打者に対しては、非常に大きな落差をみせました。

スライダー

横の変化は昨シーズンとほぼ同様ですが、縦に大きく沈んでいます。

カーブ

左打者にのみ投球しました。やや球速は速くなりましたが、変化量は昨シーズンに近い変化量です。

表4 対右打者における各球種のスピンレートとボールの変化量
球種スピンレート(rpm)縦の変化量(cm)横の変化量(cm)
4シーム2241
(2253)
42
(45)
29
(23)
2シーム1968
(2159)
29
(34)
49
(38)
スプリット1635
(1613)
18
(20)
42
(29)
スライダー2301
(2264)
8
(13)
-2
(-5)

カッコ内はMLB平均

表5 対左打者における各球種のスピンレートとボールの変化量
球種スピンレート(rpm)縦の変化量(cm)横の変化量(cm)
4シーム2259
(2253)
43
(45)
34
(23)
2シーム1961
(2159)
27
(34)
47
(38)
スプリット1407
(1613)
6
(20)
42
(29)
スライダー2429
(2264)
3
(13)
0
(-5)
カーブ2550
(2413)
-17
(-15)
-12
(-17)

カッコ内はMLB平均

各球種ごとのフォームの特徴(昨シーズンとの比較より)

リリースが下がり要注意!やや横振りの可能性アリ

【表5、6】をみると、リリース高が昨シーズンよりもさらに下がっています。前回はリリースの低さを武器の一つとして取り上げましたが、あくまで高パフォーマンスが発揮できるフォームであることが大前提です。

開幕戦では、昨シーズンと比べてエクステンションも短くなっています。一般的に、スリークォーター気味のフォームではエクステンションが短くなりやすく、田中投手も昨シーズンのフォームと比べてよりスリークォーター気味のフォームになってしまっていたかもしれません。

ボール変化量で軒並みシュート成分が増加していることも、このフォームのズレが影響していると推察されます。右肘に故障歴のある田中投手にとってフォームの少しのズレは、投球だけでなく身体にも悪影響を与える可能性があります。フォームの修正がひとつの大きなポイントとなるかもしれません。

 また、リリース横が小さくなっています。フォームの影響なのか、プレートを踏む位置がそうさせているのかわかりませんが、明らかに去年とは異なっています。昨シーズンはプレートの位置をコントロールしてより左右の変化を感じるような投球ができていましたが、開幕戦では制球に苦しみ、打者を揺さぶりきれませんでした。

表6 対右打者における各球種のリリース位置
球種リリース高(cm)リリース横(cm)エクステンション(cm)
4シーム157
(163)
27
(37)
177
(178)
2シーム156
(162)
29
(40)
178
(178)
スプリット165
(165)
29
(39)
168
(174)
スライダー158
(164)
37
(45)
166
(171)

カッコ内は昨シーズンデータ

表7 対左打者における各球種のリリース位置
球種リリース高(cm)リリース横(cm)エクステンション(cm)
4シーム156
(162)
31
(46)
175
(180)
2シーム158
(161)
36
(45)
175
(180)
スプリット161
(165)
30
(45)
170
(174)
スライダー156
(163)
41
(51)
165
(171)
カーブ170
(173)
29
(49)
162
(163)

カッコ内は昨シーズンデータ

各球種のカウントとゾーンの特徴(昨シーズンとの比較より)

重圧か。最大の武器のコマンド力が発揮できず

前回は、田中投手のコマンド力は圧倒的であり、最大の武器であることを紹介しました。しかし開幕戦ではそのコマンド力が発揮しきれませんでした。

田中投手は狙ったスポットに投球することに加え、同一球種内でも緩急をつけるクレバーな投球を持ち味としていましたが、開幕戦ではストライクゾーンに制球することすら苦労した印象です。

特に右打者に対しては4シームに代表されるように、外角のボールゾーンに引っ掛けてしまう場面が多くみられました。【図5】

図5 対右打者へのボールの投球割合

高低ではなく、左右にボールがバラついたことにも注目です。投球側腕の振りに沿ったラインに投球が集まり、投球されたボールの位置が直線的になってしまう特徴は、アマチュア野球の投手の多くにみられる現象で、研究報告もされています(Shinya et. Al, 2016)。

フォームの特徴でも触れましたが、やはり腕の振りがいわゆる「横振り」気味になっていたかもしれません。

2017年飛躍のポイントを探る

田中投手の開幕戦について分析してきましたが、やはり結果だけでなく投球そのものも、本来のものではなかったようです。球速は昨シーズンと同様でしたが、リリース位置が下がり、ボールも全体的にシュートしてしまいました。腕の振りがやや横振り気味になっている可能性が高く、その影響でボールの変化が昨年と大きく異なっています。

自分自身でボールの変化が制御できなければ、当然コマンドは下がってしまいます。制球に苦しんだ原因は、ボールの変化量の劇的な変化が原因であったかもしれません。

本来のフォームではないにも関わらず球速が出ていることは、どこかの部位に大きな負担がかかっているということかもしれません。右肘に故障歴を持つ田中投手にとっては、フォームの見直しは早急に対応すべきかもしれません。

しかしながら、田中投手が今シーズンから意図的にフォームをスリークォーター気味に変更している可能性も残されます。

田中投手自身メジャー移籍後、2シームの割合を増やしてゴロを打たせる狙いの投球が増えてきています。エースとして球数を減らしたい意図かもしれませんが、昨シーズンほどのコマンドを維持できなければ、かえって球数を増やすことになります。

開幕一試合で判断できないかもしれませんが、2シームの横変化だけを考えることが決してプラスではないことを頭に入れる必要があるでしょう。

ここまで田中投手を分析し、課題も多く出てしまいました。しかし昨シーズンのような本来の投球を取り戻すことが出来たならば、サイヤング賞の有力候補の一人であることは間違いありません。

Baseball Geeksでは今後の田中投手の登板も追跡調査を続けていき、定期的に連載していきたいと思っています。

甲子園決勝戦での投球、年間無敗で楽天を初優勝に導いた投球。田中投手は多くの伝説と共に常に野球ファンの心を熱くさせてくれました。

メジャー挑戦後最大の逆境も跳ね返し、田中投手が次なる夢を見せてくれると信じて今後も応援していきます!!

※Baseballsavantリニューアルに伴い、一部データを更新しました(2017/6/22)

Baseball Geeks編集部

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